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コミュニケーション戦略人権リスクとコミュニケーション 〜フジテレビの事例から考える企業の新たな責任〜

2025.02.26

人権リスクとコミュニケーション

〜フジテレビの事例から考える企業の新たな責任〜

119社を超えるスポンサーがCM出稿を停止—。
メディア史上前例のないこの事態は、日本企業における人権リスクとコミュニケーションの根本的な課題を、図らずも白日の下にさらすことになりました(本稿の内容は2025年2月17日時点の情報に基づいています)

 

変わりゆく社会の「人権感度」
東京都が2024年12月に発表した「人権に関する都民の意識調査」によれば、日本における人権尊重に対する肯定的な評価は前年比1.9ポイント減の63.9%となっています。
特に注目すべきは、否定的な評価をした人々の声です。「報道を通じ、社会で人権侵害や誹謗中傷が増えたと感じる」という回答が30.3%と最も多く、「自分中心で他人のことを考えない人が増えた」(29.3%)、「多様性が尊重されていない」(15.2%)という声が続きます。
また「インターネットによる人権侵害」(42.5%)や「プライバシーの流出」(37.1%)への懸念が急速に高まっています。SNSの普及により、かつては見過ごされてきた問題が可視化され、瞬時に社会的な議論を呼ぶようになったのです。

そんな社会の変化を、企業はどう受け止めるべきなのでしょうか。

「表沙汰にならなければ問題ない」「時間が解決してくれる」—。従来型の危機管理では、このような発想が根強くありました。しかし、デジタル時代においてこの考え方は致命的な誤りとなります。SNS上での情報拡散は瞬時に起こり、一度失った信頼を取り戻すのは極めて困難です。

この変化は、特に人権に関わる問題で顕著に表れています。2017年にハリウッドから始まった#MeToo運動は、セクシュアル・ハラスメントを「個人間の問題」から「組織の構造的な問題」へと捉え直す大きな転換点となりました。
そして2023年のジャニーズ事務所問題、2024年の松本人志氏の問題は、権力関係を利用した性的搾取や人権侵害を「見過ごせない問題」として日本社会が認識する契機となりました。これらの出来事は、企業の危機管理の在り方に根本的な変革を迫るものとなったのです。

 

変わる企業価値の定義
近年、企業価値の定義そのものが大きく変化しています。金融機関は融資判断に人権への取り組みを組み込み始め、政府の公共調達でも人権尊重が要件となりつつあります。2024年の経団連調査では、上場企業を中心に76%の企業が人権に関する取り組みを推進していると回答しています。
つまり、人権への配慮は今や「あったら良いもの」ではなく、企業の存続に関わる必須要件となっているのです。そしてこの変化は、組織の在り方そのものを問い直す機会となっています。

 

人権リスクへの取り組み方
「国際基準」や「人権」という言葉を聞くと、どこか遠い話のように感じてしまう—。
多くの企業がそんな戸惑いを感じているのではないでしょうか。

しかし、実際の取り組みは私たちの日常業務に密接に関わるものです。2024年11月に厚生労働省とILO駐日事務所が発表した「労働におけるビジネスと人権チェックブック」は、そのことを分かりやすく示しています。このチェックブックは、企業が最低限守るべき五つの原則を示しています。結社の自由、強制労働の撤廃、児童労働の廃止、差別の撤廃、そして安全な作業環境の確保です。(これらの原則は、グローバル企業であれば当然意識しているものですが、日本企業にとってはまだまだ新しい視点かもしれません。)

「労働者の声を聞く仕組みはありますか?」「国籍や性別による処遇の違いはありませんか?」—。こうした具体的な問いかけを通じて、自社の課題が見えてきます。重要なのは、これらを労使で対話しながら確認していくプロセスです。課題を見つけた時に「問題がある」と悲観的になるのではなく、それを改善の機会として前向きに捉えることが大切です。

東京都の調査で「学校での人権教育」の推進を求める声が40.0%に達しています。次世代の人権意識は、間違いなく現在よりも高まっていくでしょう。
実際、人権への配慮を怠った企業では、人材の流出や採用難に直面するケースが増えています。逆に言えば、人権を重視する組織づくりは、次世代の人材を引きつけるための重要な投資となるのです。

 

新しい時代の組織運営へ
では、具体的に何をすべきなのでしょうか。

まず必要なのは、組織の中に「声を上げられる」仕組みを作ることです。内部通報制度の整備はもちろん、日常的な対話の機会を増やすことが重要です。そして何より、経営層が「人権リスク」を経営の中核課題として認識し、具体的なアクションを起こしていく必要があります。

それは、例えば以下のような取り組みから始めることができます:

  • 現場の声を丁寧に拾い上げる仕組みづくり
  • 経営層と現場の双方向コミュニケーションの促進
  • 人権問題に関する定期的な研修や対話の場の設定
  • 問題が起きた際の対応プロセスの明確化

重要なのは、これらを単なる「制度」として導入するのではなく、組織の文化として定着させていくことです。

人権への取り組みは、もはや「対応すべき課題」の域を超えています。それは、組織の価値観と存在意義を問い直し、次世代に向けた新しい「当たり前」を創っていく営みなのです。

この変化を恐れる必要はありません。むしろ、これを組織の持続可能性を高める機会として捉えるべきでしょう。様々なツールや指針を活用しながら、一歩一歩着実に前進していく。その積み重ねが、やがて新しい時代の「当たり前」を創り出していくのです。

参考文献:
ILO「『中核的労働基準』チェックブックが完成 厚労省・ILO」
東京都「『人権に関する都民の意識調査』結果について」

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