
自然災害富士山噴火・首都直下地震に備える!企業のための最新リスクコミュニケーション戦略
2025.04.11
富士山噴火・首都直下地震に備える!企業のための最新リスクコミュニケーション戦略
消防庁は3月18日、「緊急消防援助隊の編成および施設の整備等に係る基本的な事項に関する計画」を公開しました。この改定は、大規模災害への対応力強化を目的とし、救助部隊の増強や情報統括支援隊、安全管理部隊、救急特別編成部隊の新設を盛り込んでいます。また、小型車両の活用や自衛隊との連携強化、被災地状況に応じた柔軟な部隊運用も計画に明記されました。この計画改定は、令和6年度から令和10年度までの5年間の緊急消防援助隊の体制整備を示すものです。
そして内閣府は3月28日、「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」を公表しました。
このガイドラインは、国や地方公共団体、関係機関が各地域で降灰対策を講じる際の参考となるよう、基本的な考え方や留意点をまとめたものです。
特に、富士山から離れた首都圏のような地域における降灰の影響に特化した対策を想定していますが、火山周辺地域や他の火山の降灰対策にも応用できます。また、鉄道、道路、航空、物資輸送、電力、通信、上下水道、建物など、様々な分野における降灰の影響が想定されています。
日本企業にとって自然災害への備えは「あったら良いもの」から「必須のもの」へと変化しつつあります。令和6年能登半島地震の経験、そして今後予測される首都直下地震や南海トラフ地震、さらには富士山噴火の可能性など、日本企業は複数の災害リスクと隣り合わせに事業を行っています。
自然災害が発生した際、企業に求められるのは単なる「対応」ではなく「コミュニケーション」です。
適切なリスクコミュニケーションは、企業の存続を左右する重要な要素となります。
そこで本稿では、最新の政府ガイドラインや災害対策の知見を踏まえ、企業が自然災害に備えるためのリスクコミュニケーション戦略を解説します。
富士山噴火に備える“降灰ステージ”別対応ガイド
政府のガイドラインでは、火山灰の降灰量に応じて4つのステージが定義されています。
この4ステージに合わせ、事前に「どのように社内外へ伝えるか」の戦略設計が有用と考えます。
降灰被害の4つのステージと企業対応例
ステージ1(降灰量わずか)
企業対応: 通常業務継続可能だが、情報収集と従業員への注意喚起を実施
コミュニケーション: 顧客・取引先に通常通り営業していることを伝達
ステージ2(降灰量やや多い)
企業対応: 一部業務の制限、屋外作業の中止・延期検討
コミュニケーション: 営業時間短縮や一部サービス停止の可能性を事前告知
ステージ3(降灰量多い)
企業対応: 多くの業務の停止、必要最小限の業務のみ継続
コミュニケーション: BCP発動の告知、重要業務の継続状況の説明
ステージ4(降灰量非常に多い)
企業対応: 原則として全業務停止、従業員の安全確保が最優先
コミュニケーション: 業務停止の告知と再開見込みの説明
企業のための降灰対策コミュニケーション計画
平時からの準備
・降灰対策マニュアルの作成・周知
・降灰対応訓練の実施
・サプライチェーン全体でのリスク情報共有体制構築
情報収集ルートの確保
・気象庁・地方自治体からの噴火情報・降灰予報の定期チェック
・複数の情報源からの情報収集体制整備
・SNSなどからのリアルタイム情報モニタリング
ステークホルダー別コミュニケーション戦略
・従業員向け: 安否確認システム、定期的な状況共有
・顧客向け: Webサイト・SNSでの営業状況更新
・取引先向け: 納品遅延の可能性や代替手段の事前協議
・株主・投資家向け: 事業継続状況と財務影響の適時開示
消防との連携強化で「助けられる企業」になる
改定された緊急消防援助隊基本計画では、情報統括支援隊や安全管理部隊などの新たな専門部隊が創設されました。この改定は、能登半島地震などの経験を踏まえたものであり、企業としても、こうした公的支援体制の強化に合わせた対応が求められ、“連携の質”が問われています。
・地元消防と平時から情報共有
・化学物質などの取扱情報を事前に伝達
・地域訓練への積極的な参加
・災害時の連絡担当・代替手段の明確化
これは“災害時の救助効率”だけでなく、事業継続の可能性を高める重要な戦略となります。
危機発生時のコミュニケーション
災害などの危機が発生した際、企業のコミュニケーションは通常時とは異なる原則で進める必要があります。特に重要なのが、情報発信の基本原則です。
迅速性はその筆頭です。第一報は事実確認を待たずとも「調査中」として発信することが重要です。例えば「当社は○○地震の発生を確認し、現在状況を確認中です。詳細が分かり次第、続報をお伝えします」といった最小限の情報でも、まずは発信することが大切です。情報が不足している段階でも「調査中」と伝えることで、ステークホルダーの不安を軽減できます。
透明性も欠かせない原則です。悪い情報ほど早く、正直に伝えることが信頼につながります。被害の隠蔽や過小報告は、後に真実が明らかになった時に、企業への信頼を大きく損なうことになります。「現時点で○○の被害を確認しています。さらに調査を進めており、被害が拡大する可能性もあります」というように、現状を正直に伝え、今後の可能性についても言及することが重要です。
一貫性も重要な原則です。情報の整合性を保つために、発信前に情報を精査し、矛盾がないようにします。また、過去に発信した情報と新たな情報に矛盾がある場合は、その理由を説明することが大切です。「前回の発表では○○と報告しましたが、その後の調査で△△であることが判明しました」というように、情報の更新過程を明確にすることで、信頼性を維持できます。
共感性も忘れてはならない原則です。被害者や影響を受ける人々への配慮を示すことで、企業の姿勢が伝わります。「被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます」という言葉だけでなく、具体的な支援策や配慮(「顧客への影響を最小限にするため、以下の対応を行っています」など)を示すことが重要です。
メディア対応も危機時のコミュニケーションで重要な要素となります。平時からの関係構築が基本となります。定期的な情報交換や懇談会などを通じて、メディアとの信頼関係を築いておくことで、危機時のコミュニケーションがスムーズになります。
一貫したメッセージの準備も欠かせません。危機発生時には様々な問い合わせが殺到するため、主要な質問に対する回答を事前に準備し、広報担当者間で共有しておくことが重要です。また、回答内容が時間とともに変わる場合は、いつ何が変わったかを記録しておくことも大切です。
専門用語を避けた分かりやすい説明も心がけ、特に技術的な内容や専門的な災害情報を伝える際は、一般の人にも理解できる言葉で説明することが必要になります。「○○という現象が起きています」ではなく、「○○という現象、簡単に言うと△△のような状態です」というように、平易な言葉での言い換えを加えると理解されやすくなります。
【危機時の伝え方:企業が信頼される5原則】
1.迅速性:「調査中」でも即時発信を。
2.透明性:「悪い情報ほど早く、正確に」
3.一貫性:矛盾を避け、更新には理由を。
4.責任表明:対応責任を明示。
5.共感表現:人間らしい言葉で配慮を伝える。
自社診断チェックリスト
自社のリスクコミュニケーション体制を見直す第一歩として、以下のチェックリストで現状を確認してみましょう。
☑️災害対応の責任者・担当者が明確に定められている
☑️災害時の情報収集・共有の仕組みがある
☑️ステークホルダー別のコミュニケーション計画がある
☑️定期的な訓練を実施している
☑️複数の情報発信チャネルを確保している
☑️災害タイプ別の対応マニュアルがある
☑️経営層が防災・減災の重要性を理解している
☑️従業員の防災意識向上策を実施している
☑️サプライチェーンとの連携体制がある
☑️BCPと連動したコミュニケーション計画がある
今すぐできる5ステップ
リスクコミュニケーションの計画の取り組みの一例として、以下の5つのステップをご紹介します。
【自社で今すぐできる5ステップ計画】
1.リスク評価:地域・施設ごとの災害リスク洗い出し
2.体制整備:災害対策本部+広報チームの明文化
3.手順設計:初動対応フローと定時報告ルール
4.メッセージ準備:災害別テンプレート+Q&A集
5.訓練と見直し:年1回の訓練とPDCAによる改善
リーダーに問われるのは「声の届け方」
“災害対応力”とは、防火扉の厚さや設備の耐震性だけでは測れません。誰よりも早く、正しく、誠実に「声」を届けられるか──それが企業の信頼を左右します。
災害対応において最も重要なことは「想定外」をなくすことです。あらゆる事態を想定し、準備することで、いざという時の対応力を高めることができます。そして、その準備の中核となるのが、適切なリスクコミュニケーション体制の構築だと考えます。
私たち一般社団法人日本リスクコミュニケーション協会(RCIJ)は、日本企業の災害対応力向上を支援し、社会全体の防災・減災に貢献していきたいと考えています。
本ガイドが皆様の取り組みの一助となれば幸いです。
参考情報:
総務省「緊急消防援助隊の編成及び施設の整備等に係る基本的な事項に関する計画」の改定