金融庁は2023年1月31日に、「記述情報の開示の好事例集2022」を公表しました(2022年3月に最終公表)。
金融庁は、投資家と企業の間で建設的な対話を促進するため、企業情報の充実した開示を奨励しています。
今回公表された資料では「サステナビリティ情報」、有価証券報告書の重要項目である「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「事業等のリスク」、そして「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」に関する開示について、良い事例をまとめています。
気候変動に関する投資家やアナリストが期待する開示のポイントは、以下の通りです。
・TCFDが提唱する4つの考え方(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)に沿って、開示することが役に立ちます。
・財務情報とのつながりを意識し、財務的な要素を含めた開示が役に立ちます。
・リスクや機会についての情報は、表で詳しく定量的な情報も含めた開示が役に立ちます。
・時間の流れを考慮した開示が役に立ちます。未来の目標や計画についても大切にしています。
・定量情報には前提や仮定を含めて開示することや、実績値を開示することが役に立ちます。
例として、セイコーエプソン株式会社の気候変動に関する開示について、以下のような課題がありました。
・有価証券報告書では、これまでミスリードを防ぐという観点から保守的な開示を行ってきたため、新たに気候変動に関する開示を行うことに対して、ハードルが高かった。
・気候変動によるリスクなどの財務影響を算出する方法に課題がありました。
これに対する対応策と効果は以下の通りでした。
・まずは任意開示書類から段階的に開示を進め、社内での反対意見も特になかったため、有価証券報告書まで開示対象を広げることができました。
・財務影響の算出基準が明確でないため、まずは自社で算出した情報を外部に開示し、資本市場との対話を行って、指摘を踏まえた改善を継続的に行っています。
・TCFDに賛同する前から、広報IR部を中心に社内でTCFDに関する情報を共有・啓蒙しており、長期ビジョンの中で環境への貢献を重要テーマとして位置付けていたことが後押しになりました。
人的資本、多様性などに対して投資家・アナリストが期待する主な開示のポイント
・会社独自の戦略やビジネスモデルに合わせて設定された目標や指標が公表されているかどうかや、業界標準の指標で公表されているかどうかなど、2つのタイプの人的資本指標があります。両方を公表することが望ましいです。
・会社が目指す方向性や、会社の理念や文化、戦略に基づいて、目標を設定したかどうかが説明されると、目標達成のための企業の考え方がよく分かります。
・会社が何を大切にしているか、どの問題が重要なのかを示す「マテリアリティ」について、業界標準で比較できる形で公表することが求められています。
・グローバル展開している会社は、例えば人権問題など、ロケーションごとに注意すべき点があるため、その点についても公表することが望ましいです。
・独自の指標を数値化する場合には、定義を明確にし、数値と一緒に公表することが大切です。
・過去の実績を示し、長期的な変化も公表することが重要です。
・会社が目指す方向性や、前提となる考え方、仮定を説明することが望ましいです。
・人的資本の公表にあたっては、経営戦略と人材戦略のつながりを説明することが大切です。
経営⽅針、経営環境及び対処すべき課題などに対して投資家・アナリストが期待する主な開示のポイント
・顧客や競合について、具体的な情報を開示することで、戦略やストーリーがわかりやすくなります。
・過去からの変化を理由とともに示すことで、非財務情報が理解しやすくなります。
・キャッシュの使途を優先順位で示すことで、企業の財務戦略や経営方針が分かりやすくなります。
・長期的なビジョンから詳細情報まで説明することで、理解しやすくなります。
・非財務情報と財務情報の関係を示すことで、総合的に企業を評価できます。
・株主に利益を還元するために、TSRという指標を継続的に開示することが有用です。
事業等リスクなどに対して投資家・アナリストが期待する主な開示のポイント
・リスクは完全に把握することはできないため、見直しを定期的に行うことが重要です。
・リスクの見直しには、見直しの体制やプロセス、変更されたリスクが分かるような記載が必要です。
・リスクとその対応策を明確に開示することは、社内においてリスクの認識向上につながります。
・投資家の判断に重大な影響を与える可能性があるリスクについては、影響度の大きさに優先順位をつけて開示することが有用です。
なお、この好事例集は随時更新され、今後は「コーポレート・ガバナンスの状況等」についての項目も公表される予定です。
金融庁が開示した”記述情報の開示の好事例集2022”は、企業が開示する報告書の内容について、より詳細でわかりやすい記述例を提示したものです。広報やIR担当者は、この事例集を参考にすることで、以下のようなことができます。
見本として利用することができる
好事例集は、企業が報告書で開示すべき情報の具体的な例を提示しています。広報やIR担当者は、この例を参考にして、自社の報告書の作成や改善に役立てることができます。
自社の開示内容を見直すことができる
好事例集には、より適切な開示内容を提示する例が掲載されています。広報やIR担当者は、自社がどのような情報を開示しているかと比較し、改善の余地がある場合には、自社の報告書の見直しや改善を行うことができます。
投資家とのコミュニケーションが円滑になる
投資家は、企業の報告書を通じて、企業の業績や将来の見通しについて情報を得ています。好事例集を参考にして報告書を作成することで、投資家にとってわかりやすい報告書を提供することができ、投資家とのコミュニケーションが円滑になるでしょう。
開示要件に沿った報告書の作成ができる
好事例集は、金融庁が定める開示要件に沿った報告書の作成方法を示しています。広報やIR担当者は、この要件を理解し、好事例集を参考にして報告書を作成することで、法令遵守の報告書を作成することができます。