炎上のトレンドオウンドメディアを運営するあなたが身につけたいリスクセンス_不適切発言
2021.05.06
『ゴールデンカムイ』という漫画をご存知ですか?
2018年に手塚治虫文化賞でマンガ大賞を受賞し、アニメ化も果たした野田サトル氏による累計発行部数1500万部超の大ヒット作です。この作品は随所でアイヌの文化に触れており、このマンガの影響で、アイヌに興味を持つ人が増えました。著者もこの作品にどハマりしたひとりです。
先日、日本テレビの情報番組「スッキリ」で、このアイヌの差別発言をしたとして大きな問題となりました。
この問題は、最終的に政府まで動き、総務省が30日日本民間放送連盟(民放連)とNHKに対し、再発防止に向け、差別や人権侵害に対する配慮を要請する事態にまでに発展しました。
不適切発言の経緯
下記に、今回問題となった経緯を時系列にまとめました。
・3月12日
日本テレビ「スッキリ」で、動画配信サービス「Hulu」の番組を紹介するコーナー「Future is MINE―アイヌ、私の声―」を紹介後、お笑い芸人の脳みそ夫さんがアイヌの女性をテーマにしたドキュメンタリーの紹介の後に、「この作品とかけまして動物を見つけたととく、その心はあ、犬」と発言。(番組は生放送だが、放映されたコーナーは収録したもの)
・3月12日 発言直後
SNSなどで「差別表現」と批判が殺到し炎上
・3月12日 夕方
ニュース「every」内で藤井貴彦アナウンサーが謝罪
多くのメディアが取り上げ波紋が拡大
・3月14日
脳みそ夫さんが自身のツイッターで「勉強不足を痛感しました」と謝罪
・3月15日
「スッキリ」の冒頭で加藤浩次さんと水卜麻美アナウンサーが謝罪
加藤さん:「北海道出身という立場にありながら、OAがあった時、即座に対応できなかったことをお詫びしたい」
水卜アナ:「制作に関わった者に、この表現が差別にあたるという認識が不足していて、番組として放送に際しての確認が不十分でした。その結果十分な正しい判断が行われないまま、アイヌ民族の方々を傷つける不適切な内容で放送してしまいました」
さらに「アイヌ民族の歴史や文化、差別を巡る問題などについてスッキリやそのほかの番組でも放送してまいります」と対応していくことをコメント。
・3月15日
加藤勝信官房長官が記者会見で「担当部署を通じて、当該放送局に対して厳重な抗議を申し入れた」「表現はアイヌの人々を傷つける極めて不適切なもので、誠に遺憾だ」とコメント
・3月16日
北海道アイヌ協会の大川勝理事長が首相官邸で加藤官房長官と面談して政府による対応を要請
・4月9日
放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会が、放送倫理違反の疑いがあるとして、審議入りを決定
・4月28日
日本テレビ小杉善信社長が「あらためてアイヌ民族の皆様、ならびに関係各方面の皆様に深くお詫び申し上げます」と謝罪。「BPOの審議入りに関しては、真摯に受け止め対応して参ります」とコメントし、「5月に全社員・スタッフを対象とした、アイヌ民族の歴史などを理解するための研修、6月に差別や人権問題をテーマとした研修の開催を予定しています。その後も必要な研修を行って参ります」と社内研修を実施することを発表
・4月30日
総務省が、日本民間放送連盟(民放連)とNHKに対し、再発防止に向け、差別や人権侵害に対する配慮を要請
リスクセンスを高め、社内啓蒙と教育の継続を
もしあなたの会社が作った動画が、思いかけず差別発言をしたとして炎上したら、どのように対応しますか?
そしてそれが、自社の役員や自社の抱えるタレントで、メディア側の用意した台本通りに進行をした場合の炎上したケースだったらどうしますか?
テレビ各局には、たくさんの放送禁止用語(放送注意用語)を、何十年も前から規制し放映していないので、若い世代が育ってきた環境の中で聞き馴染みがない言葉も多いでしょう。
今回のケースは、若いスタッフがアイヌ民族のことをほとんど知らないまま番組制作をしたのではないかと推測されます。
アイヌは主に北海道に住む少数民族で、長きにわたって、結婚や就職などの際には根強い差別や偏見に晒されてきたと言われています。
2019年4月には、アイヌを法律上初めて「先住民族」と明記した「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」が成立しています。
この法律で、アイヌへの差別禁止が明記され、アイヌ文化継承や観光振興などにつながる事業を行う市町村へ、交付金制度が設けられています。
また、「犬死に」、「犬の遠吠え」、「犬も食わぬ」など、日本語で「犬」はさげすみの言葉として使われています。
今回のケースはこれらを知っていれば、避けられた可能性があった事例といえます。
実際、再発防止策として、日本テレビが5月に全社員・スタッフを対象とした、アイヌ民族の歴史などを理解するための研修、6月に差別や人権問題をテーマとした研修の開催を予定し、その後も必要な研修を行うと発表しています。
失敗やミスを非難する不寛容な社会を助長することなく、今回のケースを機に、私たちを含め他局の意識もマイノリティの方により配慮できる社会に変化する手助けになるように働きかけをしたいと感じます。
同じような問題をひき起こした言葉として最近では、トランプ元大統領が発言した「中国ウイルス」がこれに当たります。昔のケースだと「トルコ風呂」「スペイン風邪」など名前を変えてと訴えられたことがあります。
マイノリティの属性の人に配慮すること、これからの時代は意識し備えをしないと企業のレピュテーションリスクを回避することが難しくなるかもしれません。
日本リスクコミュニケーション協会(RCIJ)では、危機管理広報、現状分析から構築・教育・演習まで全般にわたってご支援します。
ご要望をヒアリングし、必要に応じて専門家を派遣します。まずは気軽にお問い合わせください。contact@rcij.org