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炎上のトレンド海外コンサルティング会社の最新報告書から読み解く、リスクコミュニケーションが企業価値に与える貢献について

2021.09.03

日本では、新型コロナウイルス感染拡大や東日本大震災などの危機に見舞われる度、各官庁などでリスクコミュニケーションへの取り組みが推奨されてきましたが、時間の経過とともに危機感が薄れ対応が後手に回る組織は少なくありません。

リスクコミュニケーションが進まない要因の一つとして、費用対効果が計測しずらいという側面があります。リスクコミュニケーションに先立ち、組織内のリスクマネジメント体制を整備し実際に機能させることが必要ですが、これまで企業のリスクマネジメントがどれだけ企業価値に貢献できているのかというデータはあまりありませんでした。

リスクマネジメントは企業価値と株価に影響を与える

しかしこの度、イギリスのリスクマネジメント系のリサーチ会社Pentland Analytic社が「リスクマネジメントと企業価値の関係性に関する報告書」(Risk, Reputation and Accountability A GOVERNANCE PERSPECTIVE OF DISRUPTIVE EVENTS)を公開しました。

同社は世界の主要企業の経営陣に高度な分析とアドバイザリーサービスを提供しており、報告書では2000年からの約20年間にわたって、危機に見舞われた企業の対策状況や被害状況の調査を行い、リスクマネジメントなどの事前の取り組みが企業に与える付加価値について分析・評価した結果がまとめられています。これはリスクコミュニケーションにおいて、大変参考になる報告書といえます。

[報告書の概要]
・株主の持つ価値に与える風評危機の影響は増加している
・経営者が責任を持つ危機の範囲が広がっている
・コーポレートガバナンスとリーダーシップに対する要求が強まっている
この報告書によれば、危機に直面した企業は翌年以降、ほとんど5%株価を下げていることがわかっています。また、2020年の調査では、危機に直面した後であるにもかかわらず株価を上げた企業は、危機発生後1年の間に市場期待値より20%上回ったという結果が出ています。逆に株価を下げた企業は、30%下回りました。つまり、企業の危機対応の出来・不出来がその後の企業価値(株価)の明暗をはっきりと分けていることが明らかになりました。
明暗を分けた要因としては、次のような特徴が挙げられています。
①準備:リスク対応において準備ができていた。損失に対するコミットメントができていた。
②リーダーシップ:CEOの強い明確なリーダーシップ。逆にCEO以外でその他の役職に委任された場合は失敗する。
③コミュニケーション:統率の取れた正確なコミュニケーション。不透明、不完全なコミュニケーションの場合は失敗する。
④アクション:即時の対応と行動。
またこの株価の明暗は、年を追うごとに大きくなっています。危機が企業価値変動に与える影響の大きさに関する調査結果を、2000年時と2020年時で比較したところ、2020年の方が危機が株価に与える影響がより大きくなっていることが明らかになっています。その理由としてSNSの普及などにより、情報の拡散スピードが格段に上がったためとしています。

世界潮流において危機管理の改善が求められている

また大手コンサルティング会社PWCが2021年に発表した、2814名のビジネスリーダーへ調査した「Global Crisis Survey 2021」では「ビジネスリーダーのうち95%が、危機管理機能を改善する必要がある」と報告しています。世界中のトップクラスのビジネスリーダー達が示すように今世界中で危機管理改善が急務であることが示されているといえます。
*Global Crisis Servey 2021 https://pwc.to/3k90HGc

日本では2019年の法改定により、有価証券報告書に記載する非財務情報である「事業等のリスク」の書き方について、より詳細に情報開示を行うように求めています。
また、昨今の気候変動による自然災害の多発により、企業のESGリスクに関する情報開示について、各国が規制強化を進めています。例えば欧州委員会(EU)では2022年ごろの制定に向けて、企業持続可能性報告指令(CSRD)の策定を進められていますし、アメリカでも、米国証券取引委員会(SEC)がESG開示基準制定に向けてパブリックコメントを募集するなど動きを見せています。日本ではTCFDで、気候関連財務情報開示を実質義務化する方向で話が進められています。

今後私たちはリスクコミュニケーションにどう取り組めばよいか?

これら海外のコンサルティング会社の調査報告書より、リスクコミュニケーションは企業や組織の価値維持・向上を実現するために非常に重要であることが読み取れます。
では私たちはこれからどのようにリスクコミュニケーションに取り組んでいけば良いでしょうか?これはリスクコミュニケーションの流れを図に示したものです。

この図から、各ステークホルダーとの強固な信頼関係を構築するためには、双方向のコミュニケーションが重要であると読み取れると思います。そして取り組みにおいて以下のような3つのポイントが挙げられます。
①リスクコミュニケーションやリスクマネジメントのプロセスにおいて、COOやCFOではなくCEOがリーダーとしてコミットメントし、トップが先頭を切って取り組む
②リスクコミュニケーションに先立ち、組織内のリスクマネジメント体制を整備し実際に機能させる
③リスクコミュニケーションに関する教育・研修を継続的に行う

今後も、リスクコミュニケーションの重要性が裏付けられる機会は増えていくと想定されます。本稿を読んでいただいた皆さんのリスクコミュニケーションの取り組みにおいて、糧にしていただければ幸甚です。

(執筆者:代表理事 大杉春子)

日本リスクコミュニケーション協会(RCIJ)では、リスクの現状分析からヒアリングし、構築・教育・演習からBCP策定などリスクコミュニケーションを全般にわたってご支援します。必要に応じて専門家派遣も行っています。専任カウンセラーによる無料相談も行っておりますので、まずは気軽にお問い合わせくださいcontact@rcij.org

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