炎上のトレンドリスクトレンド最前線_SDGs時代に後れを取りたくない経営者と広報担当が理解しておきたい「人権デューデリ」
2021.09.22
Q あなたの会社の取引先が、外国人技能実習生に違法労働させていたことがわかりました。このことにより、製品の不買運動呼びかけがSNS上で広がっています。
もしあなたが担当者ならこの問題に対し外部へどのように情報発信を行い、関係する内外のステークホルダーとどのようなコミュニケーションを取りますか?
外務省は2021年9月6日、「ビジネスと人権」に関する取組事例集(国内企業17社)を公開しました。
ビジネスと人権」に関する取り組み事例集
〜ビジネスと人権の指導原則」に基づく取り組みの浸透・定着に向けて〜
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100230712.pdf
「人権の尊重」はSDGs(持続可能な開発目標) に取り組む上で重要な位置づけとしてされ、投資家からも企業に人権尊重を求める声が高まっています。これによりESG投資の中で、「ビジネスと人権」は重要な取組とされ、さらに2021年6月に改訂された「改訂コーポレートガバナンス・コード」では、企業の取締役会が検討すべき課題に「人権の尊重」が明記されており、上場会社はサステナビリティの取組の開示について求められています。
SDGsの逆を行くような事業活動をしていること、それを広く知られることは大きなリスクになり、冒頭で問いかけたようなケースは他人事ではなく、企業は「人権リスク」に対して迅速な対応が必要になっています。そしてこれは対応しないことによって起こる、企業のレピュテーションリスクが高まっている大きな経営課題と考えられます。
国内の最近事例では、ユニクロを手がけるファーストリテイリングが、中国によるウイグル族への強制労働があるとして米国への衣料輸入が差し止めとなったケースや、無印良品の新疆綿に関わるサプライチェーンの問題などが挙げられます。
グローバル化が進む中で企業活動により発展途上国では強制労働や児童労働などの人権問題は顕在化してきました。日本では外国人技能実習制度などが実質的な強制労働として批判されるケースなどがあります。
こうした人権問題に対し、アメリカでは2010年代からドット・フランク法やサプライチェーン透明法といった法規制がなされ、上場企業になどに対し調達先の詳細調査や強制労働を防ぐ措置を公開する義務づけを行ってきました。さらに2016年に強制労働によって生産された製品のアメリカへの輸入を禁止しています。(米貿易円滑化・貿易執行法)
このほかにEUやフランスでは一定の規模以上の企業に、自社サプライチェーンの人権・環境への影響について調査を義務づけ。オーストラリアは奴隷労働の禁止。ノルウェーでもサプライチェーンでの人権保護を施行しています。
このような世界潮流のなかで企業は今後、自社はもとよりサプライチェーンも含め労働実態を把握していないと、人権リスクを放置している企業としてバッシングされる可能性が高まっています。
では具体的に、私たちはどのような対応をすればいいのでしょうか?
冒頭で問いかけたようなケースでは、対応の一例として早急な事実確認の後出来るだけ経営トップが会見を行い、「取引先行動規範」詳細など透明性のある再発防止策を開示することが求められます。しかしこのような対応も平時からリスクの確認を行い、対策を行わなければ時間制限のある中での適切なコミュニケーションは困難なものと考えます。
日本政府は2020年に「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定し、企業に対しては国連の指導原則に沿って対応するように求めています。
国連の指導原則で、企業に対して求められている3つの責任や、外務省の発表した他社事例を参考にしながら対応を行うと良いでしょう。
国連が定める人権を尊重する企業の3つの責任
①人権方針の策定
【人権方針策定における5つの要件】
1.企業のトップが承認していること
2.社の内外から専門的な助言を得ていること
3.従業員、取引先及び、製品やサービス等に直接関与する関係者に対する人権配慮への期待を明記すること
4.一般公開され、全ての従業員や、取引先、出資者、その他関係者に向けて周知されていること
5.企業全体の事業方針や手続に反映されていること
②人権デューデリジェンス
自社や取引先も含め、どのような場所や分野で、どのように人権が扱われているかを特定し、それに対処すること
【人権デューデリジェンスのステップ】
1.人権への悪影響の特定
2.人権への悪影響の予防・軽減
3.対応の実効性の追跡調査(PDCA)
4.情報発信と外部とのコミュニケーション
③苦情メカニズムの構築
人権侵害が起きたとき、社内ホットライン(コンプライアンス通報・相談)や取引先向けホットラインの設置といった労働者向けの苦情処理メカニズムの整備をすること
人権リスクには強制労働の他にも、ハラスメントやジェンダーや国籍、人種差別、低賃金といったさまざまなものがあります。経営者はこのようなグローバルな流れがあることを現場の社員に意識を浸透させる必要があります。
危機管理広報やリスクコミュニケーションの取り組みではまず、組織内のリスクマネジメント体制を整備し実際に機能させることが必要になります。上記はリスクコミュニケーションの取り組みの中で行うステップととても等しいです。
変化の激しい時代では企業を取り巻くリスクは日々変化していて、新たなリスクが発生し続けています。一方で激しい変化はリスクでもあり、新しいビジネスチャンスにも繋がります。リスクとチャンスは表裏一体であり、リスクを恐れていては企業の発展は後れを取ります。リスクはチャンスであり、リスクを管理する力があると、経営者は安心してリスクにチャレンジでき適切なリスクテイクが出来るようになります。リスク管理やリスクコミュニケーションの取り組みにおいて、本稿が少しでもサポートになれたら幸いです。
※本稿の内容は、本稿の情報を用いて行う行為によって生じ得る結果については何ら責任を負うものではありません。
(執筆者:代表理事 大杉春子)
日本リスクコミュニケーション協会(RCIJ)では、リスクの現状分析からヒアリングし、構築・教育・演習からBCP策定などリスクコミュニケーションを全般にわたってご支援します。必要に応じて専門家派遣も行っています。専任カウンセラーによる無料相談も行っておりますので、まずは気軽にお問い合わせください。
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