炎上のトレンド炎上させたくない広告コンテンツに今必要な第3のチェック「レピュテーションリスク評価」
2021.09.27
しかし動画公開後、ポジティブな反響がある一方で内容が女性蔑視であると批判のコメントも書き込まれました。さらに従業員と思われる人間が、この広告を引用し「こんな動画作っている会社だけど、社内では女性差別がある」と匿名でSNSに投稿しました。これがきっかけで「言ってることとやっていることに一貫性がない」「支離滅裂」などと批判が殺到してしまいます。
もしあなたがこの会社のマーケティング担当者だったら、この後どのように対応しますか?瞬時にいろんな事が頭の中を駆け巡り、パニックになる方が多いのではないでしょうか?
動画は削除したほうがいいのか?こういう時ホームページ上に「お詫びのお知らせ」的なコメントを掲載するんだっけ?それってどんな内容を書けばいいのか?そうだよくある「再発防止策」ってどんなことを書けばいいんだろう。匿名の書き込みってどう特定するの?投稿の削除依頼してもいいのかな?こういう時、どこの部署と相談すればいいんだっけ?
と言った具合です。
人は「炎上」という非日常な事態に遭遇した時、日頃からよほど備えていない限り冷静な対応をすることはとても難しいものです。そしてせっかくチームで知恵をしぼり一生懸命制作した広告のメッセージが、自分たちが意図しないところで炎上してしまうことは避けたいものです。一つの広告が発端となり、株価下落や業績悪化にまで及んでしまう最悪の事態に発展するケースも珍しくありません。
世界60都市でコミュニケーションサービスを展開するエデルマン・トラストバロメーターの報告書(2019)によると、物議をかもしている話題を理由に、ブランドを選んだり、変えたり、避けたり、ボイコットしたりすると回答した購買者は日本が約55%、グローバルでは約64%にのぼりました。
これまでの広告活動で多くの企業は、情報公開する前にまず「ファクトチェック(事実確認)」を行い、その次に法的に問題ないか「リーガルチェック」を行なっていましたが、今後はさらに第3のチェックとして「レピュテーションリスク評価」がアドオンで必要になる潮流がやってくると思います。
コンテンツはなぜ意図せず「炎上」してしまうのか?
広告コンテンツなどが炎上してしまう理由は主に次の3つがあります。
2. ある程度ネガティブな反応は想定した上で、それでも伝えたい強いメッセージがあったのでリスクをとって発信した
3. セクハラなど好ましくない企業文化が、コンテンツがきっかけとなり外部に情報が漏れた
同じ「炎上」するにしても、この3つの中で一番避けたいのはレピュテーションリスクによる影響度が最も大きく、対応の難易度も高い「3」の「セクハラなど好ましくない企業文化が、コンテンツがきっかけとなり外部に情報が漏れた」です。そもそもこれはコンテンツを制作したチーム単体ではコントロールが難しい領域になります。
逆に一番好ましいのは「2」の「ある程度ネガティブな反応は想定した上で、それでも伝えたい強いメッセージがあったのでリスクをとって発信した」で、ネガティブなフィードバックがゼロ、かつインパクトのあるコンテンツを発信することはとても難しく、メッセージ性が高ければ高いほどリスクは高まります。よってテイクリスクし、もし炎上させてしまった時にもあえて対応しない、または明確なスタンスを持って対応するといったアクションができれば危機を好転させるコミュニケーションにもつながります。(世界的な大手スポーツメーカーなど、この手法を用いた広告戦略を行なっているケースをたびたび目にします)
「1」の、 コンテンツを見た時のマイノリティの人たちの気持ちを、自分の価値観では想像できなかったは、時代の潮流とリスクトレンドを理解できればコントロールが可能なケースです。
テイクリスクできれば「炎上」は怖くない
世界的なマーケティングブランディング会社、カンターの調査(2019)によるとマーケターの91%が、自社の広告で女性をポジティブなロールモデルと描写することに成功していると回答した一方、消費者の45%は広告の女性の描写は不適切であると感じていると、マーケターと消費者の広告表現に対する大きなギャップが明らかになりました。
背景にはアメリカなどで、セクハラなどを受けた女性蔑視抗議の「#MeToo運動」や、黒人の命も大事とする人種差別抗議「BLM運動」の中といった活動が広がっていることがあります。こうした中、「ポリコレ」や「マイクロアグレッション」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。
「ポリコレ」とは、ポリティカル・コレクトネス(political correctness)の略で、少数派の人たちが不快感を感じないように、中立的な表現などをしようという活動のことです。
国内の例として、花王が「美白」という表現をしないと発表したことなどがあります。
「マイクロアグレッション」は、まだ日本では馴染みがあまりないかもしれません。簡単にいうと特定の個人に対して、その人が属する集団を理由に差別的なやりとりのことで、マイノリティ(障害者、高齢者、女性、男性、LGBTQ)などが日常的に経験していることとされています。
例として、アメリカで生まれ育ったアジア系アメリカ人に対してアメリカ人ではないと決めつけ、「どこの国の出身?」と聞くことなどがあります。誉め言葉の中に含まれたり、相手を傷つけようとする意思がなかったりするケースもあります。
このような世界潮流の動きをキャッチできるようになると、国内で最近発生している批判を浴びた政治家の発言や、「炎上」させてしまったコンテンツの原因がわかるようになってきます。リスクセンスを身につければ、コンテンツを目にするであろうマイノリティの人たちに対して「そんな意図はなかった」と「炎上」させてしまう可能性は低くなります。
マーケティング戦略において、これまでセグメントしていたターゲットやペルソナ以外の人も、自分たちが作ったコンテンツを目にした時どんな気持ちになるだろう?チームにそのような意識ができるとフィルターのようなチェック機能となるのです。
最後に、Good practiceとして1億8,000万以上再生された、世界的に非常に評価が高かったダヴの広告(2013年)を紹介したいと思います。この動画はすでにご覧になった方も多いと思いますが、ダヴが行なった実験で、一つは自分の説明に基づき、もう一つは他人の説明に基づく似顔絵を2つずつ警察庁の捜査員に描いてもらい、この2つの似顔絵によって見えてくる「自身が考える美しさ」と「他の人から見た美しさ」を表現しています。
ダヴ: リアルビューティー スケッチ | あなたは自分が思うよりもずっと美しい
この動画はすでにご覧になった方も多いと思いますが、ダヴが行なった実験で、一つは自分の説明に基づき、もう一つは他人の説明に基づく似顔絵を2つずつ警察庁の捜査員に描いてもらい、この2つの似顔絵によって見えてくる「自身が考える美しさ」と「他の人から見た美しさ」を表現しています。
女性の自分のことを過小評価してしまう「アンコンシャスバイアス」への気づきというセンシティブなテーマでありながら、評価が高かったこのような動画から私たちも参考にできる点は多いと思います。
多様性が進む現代社会において、コンテンツのファクトチェック、リーガルチェック、そして第3のチェック「レピュテーションリスク評価」が新たにアドオンしたいマナーのカードとして、本稿を読んでいただいている皆さんのサポートになれたらうれしいです。
(執筆者:代表理事 大杉春子)
日本リスクコミュニケーション協会(RCIJ)では、リスクの現状分析からヒアリングし、構築・教育・演習からBCP策定などリスクコミュニケーションを全般にわたってご支援します。必要に応じて専門家派遣も行っています。専任カウンセラーによる無料相談も行っておりますので、まずは気軽にお問い合わせください。
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