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コラム・対談2021年コミュニケーション戦略のキーワードは「女性活躍」

2021.12.29

今年も残すところあとわずかになりました。2021年をビジネスの実践とアカデミアの両面から、国内外のコミュニケーション戦略の事例やトレンドを振り返ると、「女性活躍」が、ひとつのキーワードとして総括されると感じています。
今回は少しマクロ的な視点から、中長期的に企業価値を上げるために、コミュニケーション戦略の取り組みについてまとめていきたいと思います。みなさんの来年からのPR戦略の立案や施策において、少しでもヒントになれると幸いです。

コミュニケーション戦略の好事例に共有すること

今年も新型コロナウイルス長期化やワクチンをめぐる混乱が続きました。さらに東京オリンピック2020大会の開催、豪雨や地震の頻発、さらにサイバー攻撃の発生など、さまざまなリスクが顕在化しました。また、サプライチェーンなどの観点から、中小企業にもSDGsやESGへの要求水準が高まり、より対応が強く求められるようになりました。多くの方がこれまでには思いもよらなかったことが、事業リスクとなって襲いかかる時代になったことを感じたのではないかと思います。

著者は昨年2020年後半ごろから、コロナ禍で世の中の不確実性が高まるなかでの、前線に立つ女性たちのリーダーシップやコミュニケーションに注目してました。例えば、ニュージーランドのアーダーン首相による、国民に寄り添ったメッセージなどの、彼女らしい心のこもった対応の様子はまだ記憶に新しいと思います。また台湾の「専門家内閣」を率いる蔡英文総統や、科学者出身であるドイツのメルケル首相の対応も早い段階で成果をあげました。そして、ノルウェーのエルナ・ソルベルグ首相は、子供たちに対して怖いと感じても構わないことを伝え、コミュニケーションの重要性を説いた施策も印象的でした。
国内では、米経済誌フォーブスが東京都の小池百合子知事が「将来の首相の候補」と伝え、東京都知事で初めての女性で、新型コロナウイルスにうまく対処し、再選を果たしたことを評価されました。

危機の時、うまく対応できたこれらの好事例には多くの共通点があります。コミュニケーション戦略において、トップが発信するメッセージが、CERC *の6つの原則に当てはまるという特徴があるのです。そしてこれは国や企業に関わらず、多くの好事例に共有しています。
この6つの原則は、危機時のリスクコミュニケーションでは、受け手側に対する「共感」や「敬意」をもって「はやく」「正確な」「信頼できる」情報を提供し、受け手側の理解や行動を「促進」することが重要であるということを示しています。

* 9・11以降、米国疾病予防管理センター(CDC)は、有事におけるコミュニケーションには、心理学やコミュニケーション科学、マネジメント分野の知識などがなければ対応できないと強く感じ、コミュニケーションの学問分野のエビデンスなどに基づき「クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション(Crisis and Emergency Risk Communication:CERC)」(通称:サーク)を開発。

各国の女性リーダーは、危機を乗り越えようという呼びかけを行いながら確実なアプローチをとり、同時に、弱い立場にあり社会から取り残された人々にもうまく対処しました。そしてこのように危機の際、女性のリーダーの方がより良い仕事をするという事実は、いくつかの新しい研究がそれを裏づけるものとなりました。

女性取締役が多い銀行は、不祥事が少ない

今年ニュースで幾たび報道された、度重なるシステム障害を起こし、金融庁から行政処分を受けた銀行は、取締役13名中、女性は1名。執行役員17名は全員男性という構成でした。

ロンドン大学ビジネススクール教授のバーバラカーズらの研究によると、女性取締役が多い銀行ほど、不祥事による罰金の頻度が大幅に減少することが判明しています。これは1年あたり平均748万ドルの節約に相当し、このことから、カーズ教授らは「女性取締役が多い銀行は、不祥事が少ない」と結論付けました。

しかし不祥事を防ぐために、単純に取締役に女性を一人だけ増やしても、その効果は小さく、企業行動を変えることはかなり難しいとも示しています。バーバラ教授によると、取締役の内側から力学を変えるためには、最低でも3人の女性が必要だとしています。さらに、銀行で取締役と経営幹部の両方に女性がいるとさらに大きな効果があることもわかりました。
このような、取締役会におけるジェンダー・ダイバーシティの拡大が、企業の成果にプラスの影響を与えるかどうかを分析する文献は増えてきています。

女性リーダーの方が危機下において優れたパフォーマンスを発揮

リーダーシップ・コンサルティング会社であるZenger Folkmanの研究によれば、リーダーシップに関するスキルの大半において女性が男性より高いスコアを有していることがわかりました。この調査では、60,000人以上のリーダー(女性22,603人、男性40,187人)を対象にした評価データを使用し、パンデミックにおける男女間のギャップは、それまでの測定値よりもさらに大きくなっており、危機的状況において女性がより良いパフォーマンスを発揮する傾向があることを示しています。

この他にも、今年発表された国連女性機関(UN WOMAN)は、「COVID-19の対応と回復における女性のリーダーシップ」などの調査から、感染者数や死亡者数など、新型コロナに関連する成果は、女性が率いる国の方が体系的に優れていることや、米国の知事を対象とした研究では、同様に女性のリーダーがいる州は死亡率が低いという結果が出ています。

女性比率が多いと中長期的に企業価値が上がる

また、以前「エーザイの価値創造レポート2021」についてご紹介しましたが、この中でも女性管理比率を改善すると、中長期視点から企業価値を上げることが示されています。

出典:エーザイ 価値創造レポート2021 より
エーザイが約10年、100弱のESGのKPIについて膨大なデータサンプルを収集し、ESGと財務情報の相関性を調査した研究(2021年発表)によると、上記のようなインパクトのある企業価値の創造を示唆。

ちなみに、このESGと企業価値をつなぐモデルをもう少し理解しやすいように、下記に図解してみました。

ここでは企業価値をPBRとしていますが、この図からも分かるように、非財務情報の重要視の潮流はこれからも強くなると考えます。大袈裟にいえば、コミュニケーション戦略はこの非財務情報における取り組みが肝になります。

不安で先行きの見えない時代の希望

多くの人々にとって、不安で先行きの見えない時期が到来し、今後もコミュニケーション戦略における、SDGs/ESGや「中長期的な企業価値の向上」を重視する流れはますます加速することが予想されます。そして、以前に増して危機管理の高度化が求められるでしょう。

これまでも、リーダーシップに関するジェンダー差の研究調査は数十年にわたって行われてきましたが、女性の力が、世界の運命を決定づけるような力を持っていると証明されはじめた現代では、今だかつてないほどに影響力を持ち始めていると感じます。より多様で包括的なリーダーシップへと世界が移行するにつれ、女性の指導力の可能性は希望になると考えます。

もう取り組みをはじめている企業や組織も多いと思いますが、女性の活躍がもたらす経済的価値、女性の労働参加が日本の国内総生産(GDP)や国家成長への貢献を想定すると、改めてコミュニケーション戦略として必須であると考えます。

(執筆者:代表理事 大杉春子)

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